社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~69
2026/03/16
相続対策や事業承継対策として同族特殊関係者を操作するという典型的な手法があります。これに係る裁決・裁判例は累積されており、事実認定に着地します。ここでの主題は証拠に係る検証ですのでプランニングやスキームの是非については極力触れません。相続対策や事業承継対策として一貫していえるのは経済的合理性の「見える化」です。当局では総則6項の運用体制が整備されているようですが23、それへの目配せは当然として、何の取引をするにも経済的合理性に沿ったものかを検証し、それを文書化し、さらに実体化しなければなりません。
下記も事実認定に着地します。証拠として必要なもの、先述のとおり「しないこと」が証拠になること、について検証します。実質支配してきた、という認定方法は頻出になります。
平成23年9月28日裁決や、東京高裁平成27年4月22日判決は非常に有名でかつ分かりやすいものになります。経営者株主グループと同一の議決権行使に同意していると認定された法人株主の議決権を、経営者株主グループに合算するという税務署処分を容認したのがこれらの裁決・裁判例です。
オーナー関係者の株主グループが14.98%の株式を保有している会社があり、その会社と同じ住所に所在している会社が7.88%を保有、それ以外の株主は皆30%未満という株主構成の会社がありました。同族株主のいない会社だと判定し、オーナーが死亡したときに、当初相続税申告において、当該株式を配当還元で評価しています。当局調査において、同じ住所に所在している7.88%保有の法人について、オーナーの単なる操り人形に過ぎなかったと事実認定され、そのオーナー関係者のグル-プが持っている14.98%と会社の7.88%を合算することになり、その結果、同族株主のいる会社に該当し、配当還元ではなくて相続税評価額(原則)を適用せよ、と判断がなされました。(取引相場のない株式の評価)
請求人が相続により取得した取引相場のない株式は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」には該当しないことから、配当還元方式で評価することはできないとした事例(平23-09-28公表裁決)
《ポイント》
本事例は、取引相場のない株式の評価に当たり、同族関係者の範囲について、法人税法施行令第4条第6項の規定の適用を受けることから、「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当しないと判断したものである。
《要旨》
請求人は、評価会社であるJ社は、同族株主がおらず、また、J社の株主であるK社は請求人の同族関係者ではないから、請求人とその同族関係者の議決権割合が15%未満となるので、請求人が本件被相続人からの相続により取得したJ社株式(本件株式)は、配当還元方式により評価すべきである旨主張する。
しかしながら、①K社の設立経緯、資産内容、人的・物的実体及び株主総会や取締役会の開催状況からすると、K社の出資者がJ社の経営や意思決定に関心や興味を有していたとは考え難く、また、②K社の出資者は、いずれもJ社の役員等であり、J社を退社した後は、K社の出資者たる地位を失うことになっていたこと並びにK社の出資者及び出資の譲受人は本件被相続人にその決定権があったものと認められることからすると、K社の出資者がJ社の代表取締役であった本件被相続人の意に沿った対応をすることが容易に認められること、③そして、K社は、本件被相続人死亡後開催されたJ社の取締役を選任する重要なJ社の株主総会において、K社が所有しているJ社の株式に係る議決権を、K社の出資者でも役員でもない請求人(本件被相続人の妻)に委任していることからすれば、K社は本件被相続人に代表されるJ社の創業家の強い支配下にあり、K社の出資者は、同社の意思決定を、いずれも、本件被相続人及び請求人に代表されるJ社の創業者一族の意思に委ねていたものと認められるから、K社の株主総会等における議決権の行使についても、J社の創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者と認めるのが相当である。
そうすると、請求人は、法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第6項の規定により、K社の株主総会において全議決権を有し、かつ、K社の唯一の出資者であるとみなされることから、同条第3項により、K社を支配していることとなって、同条第2項により、K社は請求人と特殊関係にある法人に該当するので、請求人の同族関係者に該当することとなる。そうすると、J社における請求人とその同族関係者の議決権割合は15%以上となるから、本件株式を配当還元方式で評価することはできない。
事実認定
(判断抜粋)
「ロ 本件被相続人のK社への本件株式譲渡について
本件被相続人は、上記イの(ロ)のAのとおり、持株比率を15%未満とすることを望んでおり、相続税対策の一環として、本件被相続人一族の持株比率を15%未満として、同人が所有する本件株式の相続税における評価方法を配当還元方式とするため、同人の所有する本件株式を、同人及びその一族が出資者となっていないK社に譲渡することとし、また、本件株式の取得資金のないK社に対しては、同人が代表取締役であるG社から貸付けを行うことにより、本件株式の譲渡をするに至った。
ハ K社の出資者について
(イ) K社の出資者は、別表3のとおりであり、いずれもJ社の役員又は従業員である。
(ロ) K社の定款には、以下の定めがある。
A 第6条 当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。
B 第7条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
(ハ) K社の出資者は、J社を退社した際には、K社の株式に関する権利を失う旨の説明を受けていた。★
(ニ) K社の出資者は、K社との間で、J社を退職する場合は、退職日をもって、K社が指名した者に1口1,000円(額面)で、K社の持分を譲渡する旨合意し、合意書を作成していた。★
ニ K社の組織等について★1(★1は下記(イ)~(ト)まで全て)
(イ) K社は登記簿上、J社と同じ場所に本店をおいている。
(ロ) J社の建物に、K社独自のスペースや、K社独自の机等備品はない。
(ハ) K社の取締役は、設立以降、いずれもJ社の役員又は従業員である。
(ニ) K社が雇用している従業員は存在しない。
(ホ) K社においては、本件被相続人の死亡する前も死亡した後も株主総会等や取締役会が開催されたことはなかった。また、K社の出資者から、株主総会等の開催を要求されたこともなかった。
(ヘ) K社の取締役は、K社から役員報酬を受け取っていなかった。
(ト) K社は、特段の事業を行っていなかった。
ホ K社の収益等について
(イ) K社の損益計算書によると、K社の収入に占める本件株式の配当金の割合は、平成21年2月期末が約93%及び平成22年2月期末が約94%である。
(ロ) K社の貸借対照表によると、K社の総資産に占める本件株式の金額の割合は、平成20年2月期末が約84%、平成21年2月期末が約84%及び平成22年2月期末が約83%である。
ヘ J社の株主総会等における議決権行使について
(イ) J社は、本件被相続人の生前は株主総会等を開催したことがなく、その死亡後においても、平成21年11月24日の臨時総会まで、株主総会を開催したことがない。★
(ロ) 平成21年11月24日、K社は、J社の株主総会におけるK社の議決権の行使を、請求人に委任した。★
なお、上記委任について、K社の出資者に対する説明はなかった。
(ハ) 請求人は、K社の出資者になったことも役員になったこともない。」
★1下記(イ)~(ト)まで全てに該当する法人は多いと想定されます。2以上の法人を有する場合、形式要件としての★1についても「しないこと」が証拠となります。
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